Jimmy Eat World – Sweetness 歌詞分析してみた。

「報われない努力」と、どう向き合う?

恋をした相手にアプローチを続けても、全然振り向いもらえないとしたら。メジャーデビューを目指してバンドで一生懸命に活動しても、全然世間から評価されないとしたら。このようなシチュエーションに陥ると、しばしば人は無力感に苛まれ、ひどく落ち込み、相手や世間を恨めしく思ってしまうこともあるだろう。「Sweetness」は歌詞単体で読むと報われない恋を歌っているように見え、ミュージック・ビデオを見ると報われないバンドについて歌っているようにも見える。では、Jimmy Eat World も無力感に絶望したり、世間を恨んだりしているかというと、そんな気配は歌詞からもミュージック・ビデオでの表情からも全く感じられない。「Sweetness」の歌詞には「報われない努力」と向き合う上での大きなヒントが記されていると思う。ポイントは以下の2つ。

1. それを努力だと思わない。これは僕が自由に、衝動に身を任せ重ねてきた日々だ。
2. ほんとうにデカい目標は、わざわざこっちに歩み寄ってきたりするわけないだろ?

これらの心構えを教えてくれる素敵な1曲として分析しました。ぜひ最後までお付き合い下さい。

このブログのコンセプト

好きな洋楽の歌詞を和訳して紹介したいのですが、和訳サイトはすでに世に溢れているし、なんならAI翻訳に任せたほうが精度が高い訳が帰ってきそうな気さえします。なので、自分が人間であるところを活かすべく、「どうしてこんな作詞ができたんだろうか〜?」という目線で歌詞を分析するブログにしようと思っています。もし自分だったら、どういう思考のプロセスを踏めばのような歌詞が作詞できそうか、を想像してみます。(*これは3投稿目の記事であり、まだ全体の構成などが洗練されていません。読みにくさもあると思いますので、指摘していただけると大変ありがたいです。)

アーティスト・曲紹介

Jimmy Eat World はアメリカ(アリゾナ)出身のロックバンドです。1993年から活動しており、初期はトム・リントン(現在ギター担当)がボーカルでしたが、3rdアルバム『Clarity』からはジム・アドキンスがメインボーカルとなっています。4thアルバム『Bleed American』が大ヒットを記録し、プラチナディスクの認定を獲得しています。いろいろなところに曲が使われており、映画『バタフライ・エフェクト』を見ていたら劇中歌に収録曲「Hear You Me」が流れてびっくりした記憶があります。


今回紹介する「Sweetness」という曲は、その『Bleed American』に収録されているうちの1曲です。エモバンドらしいギターサウンドと、抜群にキャッチーで美しいボーカルメロディの相性が最高です。日本のビールのCMに使われたこともあります。ミュージック・ビデオは画質が低いですが虫が登場するので苦手な方は注意してくださいね。

歌詞の対訳

Verse 1

If you’re listening
Sing it back
Strap from your tether unwinds
Up and outward to bind

0:00~0:48
もし聴いているなら
歌い返してほしい
君を束縛する糸は解けて
繋がりを求めて外へ向かうよ

Chorus 1

I was spinning free
With a little sweet and simple numbing me

0:49~1:02
僕は自由に紡いでいた
単純で最高な気持ちによって麻痺しながら

Verse 2

Are you listening?
Sing it back
So tell me what do I need?
When words lose their meaning

1:03~1:30
聴いてるかい?
歌い返してくれよ
僕に何が足りないのか教えてくれよ
言葉が意味を為さないときに

Chorus 2

I was spinning free 
With a little sweet and simple numbing me, yeah
Stumble ‘til you crawl
Sinking into sweet uncertainty

1:31~2:00
僕は自由に紡いでいた
単純で最高な気持ちによって麻痺しながら
君も足をとられてしまえよ
最高で不安定な沼に沈みながら

Verse 3

(Are you listening?)
If you’re listening
Sing it back
And I’m still running away
I won’t play your hide and seek game

2:28~3:03
(聴いているかい?)
聴いているのなら
歌い返してよ
まだ僕は逃げている
もう駆け引きはしないよ

Chorus 3

I was spinning free
With a little sweet and simple numbing me
What a dizzy dance
This sweetness will not be concerned with me

3:04~3:30
僕は自由に紡いでいた
単純で最高な気持ちによって麻痺しながら
なんて眩暈のするダンスなんだ
『Sweetness』は僕なんてお構いなしなんだな

Outro

No, the sweetness will not be concerned with me
No, the sweetness will not be concerned with me

3:31~3:54
そう、『Sweetness』が僕に気を取られることなんてない
『Sweetness』が僕に気を取られるのを待っていたんじゃダメなんだ

歌詞分析

タイトル「Sweetness」について

甘さ、甘味、甘美、快楽、優しさ と訳される単語だが、ここでは甘美のニュアンスに近いと思う。魅力的で、手に入れたくなる存在。恋をしている相手や大きな目標など、適宜読み替えられるように対訳では『Sweetness』のままとした。

Are you listening?  聴いてるかい?

Verse 1〜3 の全てが、「聴いてる?(聴いてるなら)応えてくれよ」という歌い出しになっている。主人公は相手(恋愛であれば意中の人、バンドであればオーディエンスあるいは世間)に呼びかけて、レスポンスを求めている。Verse 1〜3 で進展なく同じ呼びかけを続けているということは、好ましい応答が来ていないのだとわかる。一般的な考えだとこれは、”いままでの努力”が”報われていない”のだと思い知らされる、厳しい瞬間になってしまう。

I was spinning free 自由に紡いでいた

Chorus 1〜3 の全てが、「僕は自由に紡いでいた」で歌い出している。自制が過去なのは歌詞全体でこのフレーズのみなので、主人公が抱いている過去を象徴する副詞は「free 自由に」だと考える。『Sweetness』を手に入れるための日々は主人公にとって、我慢や試練、苦しい道のりなどではなかった。バンド練習での演奏中の快感や、恋をしている状態の刺激的な感覚によって、いくらか麻痺状態になっていた主人公は、”努力”や”苦しんでいる”という自覚などなく、「自由」な衝動に突き動かされながら日々を重ねてきただけなのだ。

will not be concerned with me ”報われない”?

Verse 3 で主人公は駆け引きすることをやめ、『Sweetness』に真っ向からアプローチしようとする。Chorus 3 で『Sweetness』の片鱗を味わい、圧倒され眩暈を感じる。そして至った結論が、「この『Sweetness』が僕に気を取られることなんてない」というもの。字面だけだと諦めているかのようにも読めてしまうがおそらくそうではなく、呼びかけや駆け引きで気を引こうだなんて無意味だという気づきであり、実力をつけて相手の目の前に立ちはだかるしかないという覚悟だと思う。

壮大な目標が相手なら、誤魔化しや駆け引きは通用しない。
呼びかけても相手は無関心で、歩み寄ってくれたりなんかしない。
でもそんな相手だからこそ、魅力で感覚が麻痺して僕は自由に突き進めるんだ。

作詞プロセスの想像

次のような具体的な恋愛のエピソードをベースに、テーマを恋愛に限定せず、いくらか抽象化して歌詞を作ることにする。
・ある人に恋をして、その人のことを思うとなんだって頑張れた。
・だがアプローチしても振り向かれず、そのたびに相手の魅力と、こちらの分の悪さを痛感した。
・もはや駆け引きでは振り向かせられないと悟り、傷つく覚悟で正面から挑んだ。

振り向かせるためのアプローチを繰り返していることを、ライブのコール&レスポンスに重ねて、各 Verse に配置する。相手に対して自分が劣勢であることが次第に明らかになるように、Verse 毎に段階的に自分の立場を下げて描く。Verse 1 では上から目線で、「君はもう不自由じゃないよ」。Verse 2 ではほぼ対等な目線で、「僕に何が足りないのか教えてよ」。Verse 3 では、「僕はまだ逃げていた」と弱い立場にいることを認めている。

最終的に痛感させられる自分のちっぽけさを虫のように感じ、そんな自分を惹きつけてやまない甘美な存在を『Sweetness』と呼ぶことにした。とはいえ、ちっぽけでも運命の糸を手繰り寄せようとする姿勢から、ポジティブな意味で自分を蜘蛛に見立て、Chorus では「紡いできた」という表現を採用した。


以上、想像終わり。たぶんこんな感じ

ちょっと感想

Outro で「この『Sweetness』は自分には縁がなかった」と諦めている可能性もなくはないんですが、ミュージック・ビデオを見る限り、「自分の目指している景色への解像度が上がり、現状とのギャップにうろたえながらも興奮している」様子に見えました。なかなか自分を評価してくれない相手を、非難するのではなく、むしろ高めるように見つめる精神は見習いたいです。

「衝動に身を任せていただけだから、努力だと思ってない」、というのは僕の性格や考え方がそうなのでそれに引っ張られた解釈かもしれません。ただ少なくとも、自分に厳しい試練や制約を課すことだけが目標達成の方法ではなく、とくに偉業を成し遂げた人などは、目標の抗い難い魅力に吸い寄せられるようにして高みに登ってしまう側面が大きいような気がしますし、僕はそれが好きです。

「偉そうに言ってるけど、おまえはそもそも客観的に努力してなくない?」という指摘は言葉にせずに飲み込んでおいてください。

以下自分用のメモ

  • テーマ:壮大な目標、片想いの恋
  • アプローチ:自由、不自由
  • 拠点:麻痺、魅力
  • 甘美、糸、蜘蛛、虫

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