無理に大人にならなくていい
精神的にはまだまだ未熟なのに、時間が過ぎていくにつれて、少しずつ「大人」が近づいてくる。「大人」にならなきゃいけないと焦る。自立し、責任を持たなくちゃいけないが、不安ばかりだ。同時に「子供」をやめなくちゃいけない。自由ではいられなくなるのだろう。それは嫌だ、僕は自由でいたいのに…。19歳の頃の僕はよくこんなことを悩んでいた。今は成人年齢が18に引き下げられたから、ギャップはさらに大きいはずだ。同じ悩みに苦しんでいる人に向けて、この曲の僕の解釈を届けられたら嬉しい。
不安なら、無理に一人で自立した大人になろうとしなくていい。 むしろ子供の感性を大事に、友達を大切にして、心から自由に生きるんだ。 そうしてこそ不安に立ち向かうことができ、いつのまにかしっかりと大人になれるから。
ぜひ最後までお付き合い下さい。
アーティスト・曲紹介
Coldplay はイギリス(ロンドン)出身のロックバンドです。1997年から活動しており、2000年リリースの1st アルバム「Parachutes」から最新の9thアルバム「Music of the Spheres」までの9枚全てが全英アルバムチャートで1位を獲得している(歴史上初)という、異次元の成功を収めているバンドです。アルバムの総売り上げ枚数は1億枚超えだそうです。音楽性はオルタナティブ・ロック(初期は特に U2 や Radiohead の影響が大きい)を土台にしつつ、エレクトロニカやクラシックなど多彩なジャンルを融合させており、アルバム毎に全く違ったサウンドを切り開いてきました。
今回分析する『Charlie Brown』は2011年にリリースされた彼らの5th アルバム、「Mylo Xyloto」に収録されている曲です。
歌詞の対訳
Verse 1
Stole a key
0:52~1:05
Took a car downtown where the lost boys meet
Took a car downtown and took what they offered me
鍵を盗んだ 車で街に出た、彷徨う少年たちが集う場所へ 車で街に出た、彼らの誘いに乗っていた
To set me free
1:06~1:18
I saw the lights go down at the end of the scene
Saw the lights go down and standing in front of me
自分を解放したかったんだ でも終いには、光が向こうへ沈んでいくのが見えた 遠くに光が沈んで、目の前の光に気づいたんだ
Verse 2
In my scarecrow dreams
1:31~1:49
When they smash my heart into smithereens
Be a bright red rose come bursting the concrete
Be a cartoon heart
惨めな夢の中 心が粉々に打ち砕かれるとき それは鮮やかな赤い薔薇となり、コンクリートの裂け目に花開く 漫画みたいな(チャーリー・ブラウンのような)心になる
Pre-Chorus
Light a fire, a fire, a spark
1:50~1:57
Light a fire, a flame in my heart
火を灯せ、火を、火花を 火を灯せ、僕の心に炎を
Chorus 1
We’ll run wild
1:58~2:28
We’ll be glowing in the dark, ooh-ooh-ooh
We’ll be glowing in the dark, ooh-ooh-ooh ah
自由に駆け出すよ 僕らは暗闇の中で燃え上がる 僕らは暗闇の中で輝くよ、あぁ
Bridge
All the boys, all the girls
2:29~2:50
All that matters in the world
All the boys, all the girls
All the madness that occurs
All the highs, all the lows
As the room a spinning goes
少年みんな、少女みんな 世界中のあらゆる出来事を 少年みんな、少女みんな イカれた出来事のすべてを 最高と最悪の瞬間すべてを 目が回るこの部屋とともに
Chorus 2
We’ll run riot
2:51~3:15
We’ll be glowing in the dark
覆してみよう 僕らは暗闇の中で輝くよ
Outro
So we’ll soar
3:49~4:10
Luminous and wired
We’ll be glowing in the dark
そうして僕たちは舞い上がる 光を放ち、酔いしれて 僕らは暗闇の中で輝くよ
歌詞分析
タイトル「Charlie Brown」について
犬のスヌーピーでお馴染みの漫画『ピーナッツ』の主人公、チャーリー・ブラウン(スヌーピーの飼い主)である。自他ともに認める”冴えない”人物だが、皆に愛情を持って接する人一倍心優しい性格の持ち主。なにをやってもうまくいかないけれど、諦めずひたむきに努力するヒーローな一面もある。しばしば辛い目に遭う度に、繊細な感性と豊かな想像力によって哲学的な言葉をいくつも生み出しており、読者の心に暖かい光を灯してくれるようなキャラクターである。
この曲の主人公がチャーリー・ブラウンというわけではない。この曲のストーリーにおける最大の転換点が Verse 2 〜Pre-Chorus 部分であり、ここの「漫画みたいな心になる」という表現が次のようなチャーリー・ブラウンの精神性を指しているのだと思われる。
・世間に理不尽な仕打ちを受け、打ちのめされてしまっても、諦めずに立ち向かう ・信頼している友達と一緒なら、不思議と力が湧いてきて頑張れる ・豊かな感性と哲学的発想を駆使して、冷たい現実を逆転させる
登場人物について
この曲の主人公は、大人になれずにいる少年少女である。年齢的には成人が近づいていて(あるいは既に迎えていて)、大人にならなきゃいけないと焦りつつも、それを拒んでいた。責任や不安から逃れるために、似たもの同士で夜な夜な集まっては悪い遊びをすることで、自分は自由だと錯覚させてやり過ごしていたようだ。だがそんな誤魔化しは長くは続かない。
仮初の自由が消え、不安という暗闇に孤独に取り残されたかと思ったとき、すぐ目の前に暖かい光があることに気づいた。そこには友達がいた。友達の存在が主人公に勇気を与えてくれるから、理不尽に打ち砕かれても、鮮やかに蘇ることができるようになった。そうして上述のチャーリー・ブラウンのような心が、自身に芽生えていることに気づいた。
主軸は「走る」リフ
この曲にはいわゆるサビに該当する箇所がない。便宜上 Chorus とした部分が2箇所あるが、どちらもボーカルのメロディは比較的落ち着いており、歌いぶりにサビらしさは乏しい。一方で、Chorus と同時に鳴り響くリフはエネルギッシュで疾走感があり、このリフはイントロからアウトロ直前までたびたび登場し曲の主軸となっている。
イントロや間奏部分の冒頭には赤子の声のようなものが聴こえる。イントロでは 0:18 あたりから薄らとリフが混ざって聴こえ、0:26 からはっきりとリフが流れる。赤子の声のテンポとリフのテンポが合っていない(リフの方が速い)ことによって、リフが”走っている”状態に聴こえる。途中の赤子の声とリフが混ざって鳴る部分は、”走り出している”という変化をイメージさせる。
リフが部分的に拍子を飛ばしたようなものになっている(6,8,8,8拍の繰り返し)のも相まって、早く大人にならなきゃという焦燥感や、不安に立ち向かおうと駆け出した勢い、若者らしいぎこちなさなどが巧みに表現されていると思う。
作詞プロセスの想像
不安への対処法
車の鍵を盗み、夜遊びに出掛けるような思春期の少年に対して、チャーリー・ブラウン(小学生)の心を芽生えさせる内容の歌詞にしたのは何故だろうか。おそらく、作者は少年少女たちがうまく大人になれない最大の原因を、不安(暗闇)への対処法が備わっていないことだと考えた。そして暗闇を照らすものとして、もっと子供だった頃の心が明かりになると考えたからだろう。小さな子供たちが知らないもので溢れる外の世界に冒険に出るとき、彼らは自由で解放的だ。ときに不安に襲われても、友達同士で勇気づけて乗り越えている。それをヒントにして、思春期の少年にとっても、そのような子供の感性を活性化させること、そして友達とともに駆け出すことの大切さを伝えようとしたのだと思う。
ちょっと感想
僕の解釈に少しでも納得してもらえたら、その目線で改めてこの曲の後奏を聴いてほしい。
夕方、5時のチャイムが鳴って、遊びを終わりにして友達とさよならを言うような情景が思い浮かばないだろうか(5時のチャイムはイギリスにはないだろうけど)。この心地よい懐かしさを感じさせる後奏を聴いて、主人公が最終的にはちゃんと大人になれたんだな、ということが伝わった。歌詞もないので根拠のある解釈はできそうにないけれど、無理に自分の「子供の心」を捨てようとしていた段階から、むしろそれを活性化させて成長する段階を経て、ついに「子供の心」とお別れをするときが来た、そんな印象だった。こう書くとかなり、せつないね。
以下自分用のメモ
- テーマ:思春期、成長
- アプローチ:明かり、暗闇、走る
- 拠点:子供心、友達、自由
- 漫画、火、成長
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