Bring Me The Horizon – Kool-Aid 歌詞分析してみた。

D-世代の蘇生

尊重されない世代に告げる。尊厳を奪われ、無力化され、緩やかに殺されているというのに、どうして笑っていられるんだい?与えられたものを何でも鵜呑みにしてはいけない。同調圧力をかけてくる人々の中に、君を愛している人はいない。目を覚ましてくれ。

判断力を放棄した先にある、悲惨な結末を直視しな。
幸福感に浸されていた君にとっては信じ難いほどの苦痛だろうけど、
生きるとは(そして死ぬとは)こういうことだよ。

公開されて間もない曲をこのブログで扱うのは初ですが、自分に響くものがあったので分析してみました。ぜひ最後までお付き合い下さい。

アーティスト・曲紹介

Bring Me The Horizon はイギリス(シェフィールド)出身のロックバンドです。2004年から活動しており、ジャンル的にはデスコアから始まり、メタルコア、オルタナティブ、一旦かなりポップロック寄りになったと思ったら、再びメタルコアに、というように鮮やかに音楽性を変えて大活躍しています。最近ジョーダン・フィッシュ(ライブで美声も濁声もめちゃめちゃ出せるキーボード&コーラス担当)が脱退されたのが悲しいです。

今回分析する『Kool-Aid』は、まもなくリリースされる予定(発売延期中)のアルバム、「POST HUMAN: NeX GEn」に収録される曲であり、先行してシングルとして公開されたものです。

歌詞の対訳

Verse 1

We are the children of the devolution
The infamous martyrs
The scars on the sun
Asphyxiating with a smile on your face
While they pull your teeth out one by one

0:13~0:26
僕らは退化の申し子だ
不名誉な殉教者、太陽の傷
酸欠なのに君は笑みを浮かべてる
やつらに一本ずつ牙を抜かれながら

Pre-Chorus 1

Is this what you wanted? NO
Do you want some more? YES
D-generation
Who’s keeping score?

0:27~0:38
欲しかったのはこれだろう? NO
もう少しくれてやろうか? YES
”D”世代なんだよ
誰も覚えちゃいない

Chorus 1

Cos you got a taste now
Drank the Kool-aid by the jug
So suffer your fate, ow
Come here and give me a hug

0:39~0:50
君は今、味を占めてしまった
ドグマを鵜呑みにしたわけだから
宿命を受け入れな、悲惨だね
さぁこっちへ、ハグをして

Nobody loves you like I love you
Oh, my dear
But you should of known
That this was gonna end in tears

0:51~1:01
誰も君を愛さない、僕が愛する様にはね
あぁ愛しい人よ
でも気づくべきだったんだ
ろくな結末は迎えないことに

Verse 2

Such a sucker for an execution
The void is a vampire
Fat on our blood
Domesticated like a cat in a cage
While they try their hand at playing god

1:02~1:14
処刑という娯楽に飢えた
吸血鬼のような”虚空”が
僕らの血を吸い上げている
君は檻の中の猫のよう
やつらは神様を気取りながら君を飼い慣らしてる

Pre-Chorus 2

Is this what you wanted? NO
Do you want some more? YES
D-generation
Afraid there’s no cure

1:15~1:26
欲しかったのはこれだろう? NO
もう少しくれてやろうか? YES
”D”世代なんだよ
救いが無いのが怖いんだ

Chorus 2

Cos you got a taste now
Drank the Kool-aid by the jug
So suffer your fate, ow
Come here and give me a hug

1:27~1:39
君は今、味を占めてしまった
ドグマを鵜呑みにしたわけだから
宿命を受け入れな、悲惨だね
さぁこっちへ、ハグをして

Nobody loves you like I love you
Oh, my dear
But you should of known
That this was gonna end in tears

1:40~1:50
誰も君を愛さない、僕が愛する様にはね
あぁ愛しい人よ
でも気づくべきだったんだ
ろくな結末は迎えないことに

Bridge

I got my hands around your throat
I love the way you choke
Cos I am yours and you are mine
 I’ll never let you go
My hands around your throat

I love the way you choke
Cos I am yours and you are mine
I’ll never let you go

I’ll never let you go
Get the fuck up!

2:01~2:28
僕の両手が、君の首根っこに届いた
君の窒息する姿が愛しいよ
僕は君のもの、君は僕のものだから
絶対に君を放さない
両手を君の喉元に
窒息する姿が愛しい
僕は君のもの、君は僕のものだから
絶対に君を放さない

絶対に君を放さない
さぁ目を覚ましやがれ!

Chorus 3

Cos you got a taste now
Drank the Kool-aid by the jug
So suffer your fate, ow
Come here and give me a hug

2:40~2:52
君は今、味を占めてしまった
ドグマを鵜呑みにしたわけだから
宿命を受け入れな、悲惨だね
さぁこっちへ、ハグをして

Nobody loves you like I love you
Oh, my dear
But you should of known
You should of known
But you should of known
That this was gonna end in tears
You should of known

2:53~3:16
誰も君を愛さない、僕が愛する様にはね
あぁ愛しい人よ
でも気づくべきだった
知っておくべきだった
想定できたはずだろう?
ろくな結末は迎えないと
気づくべきだったのさ

Outro

What if it’s like
La, la-la-la, la-la-la

La-la-la, la-la-la, la-la-la
Oh, I forgot something
La-la-la, la-la-la, la-la-la La-la-la,
that this was gonna end in tears
Some shit, well I…

3:18~3:45
もしもこれが、ラララ、ラララ、だったらどうする?
いや忘れてた、ラララ、ラララ、酷い結末は決まっていたんだ
しょうもないな、なら僕は

キーワード分析

タイトル「Kool-Aid」について

アメリカ発祥の粉末ジュースの代表格。水に溶かして飲む類のものですね。ジャケットはこの商品のイメージキャラクターを凶悪にアレンジしたようなイラストになっている。

この商品の不名誉な関連事項として、ジョーンズタウン集団自殺と呼ばれる有名な事件がある。1978年のアメリカで人民寺院というカルト宗教において信者たち900人以上が一斉に自殺をしたというものだ。そのときの自殺方法が青酸カリなどの毒薬をぶどう味の粉末ジュースに溶かして飲むというものだったため、この事件を由来に、”drink the Kool-Aid” というスラングが生まれた。「同調圧力に屈して誤った選択をする」「盲信する」ことを意味するのだそう。

D-generationとは

造語だが、Digital-generation(デジタル世代)を連想させるため、1990年代〜2000年代生まれの世代を指していると思われる。De-generation(否定的な世代)というニュアンスも伴うし、歌詞中の “Devolution”(退化)や “Domesticated”(家畜化された)の ”D” とも被せるために、このような造語で表現したと推測できる。

様々な窒息の表現

Verse 1 の “Asphyxiating” と Bridge の “Choke” は、いずれも簡単に訳すなら「窒息」だが、使い分けられているようなので改めて窒息関連の言葉を整理してみる。

  • Asphyxiating:酸素が奪われ欠乏している状態
  • Choking:気道(喉)が塞がれて肺に空気が取り込めなくなった状態
  • Suffocation:口や鼻が塞がれて呼吸が妨げられた状態
  • Strangulation:首を絞めて窒息させる行為
  • Smothering:口や鼻を塞いで窒息させる行為

歌詞の文脈に合わせると、酸素を奪われて徐々に意識が遠のいているのが “Asphyxiating”、首を絞め(Strangulation)られて気道が潰れて息が吸えないのが “Choke” ということになる。ちなみに青酸カリを飲んだ場合の直接の死因については、血中に溶け込んだシアン化物イオンが細胞の酸素利用を阻害することによるそうなので、(これを広義の窒息と考えるなら)どちらかと言えば “Asphyxiating” に該当するだろう。

作詞意図の想像

尊厳を奪われているのに無自覚:Verse

自分たちの世代はまるで尊重されていないと感じる。他の世代のために犠牲にされたり、退化の象徴のように扱われたりする。無責任な甘い夢ばかり見せられて価値観を狂わされ、抵抗するための武装も奪われていく。権力者たちが己の支配欲を満たすために、あるいは行き場のない残虐性や虚無への恐怖を紛らわすための捌け口として、僕らは都合よく利用されている。そうやってことごとく尊厳を奪われ、緩やかに殺害されているというのに、君は笑顔なんか浮かべて、飼い猫のように大人しく言うことを聞いているだなんて、おかしいんじゃないのかい?

人工的な甘美への依存状態:pre-Chorus & Chorus

自分たちは社会によって強制的に欲望を引き出され、それを簡単に達成することによる幸福感に常に浸されている。過剰な広告などがいい例で、本来自分が欲していたわけでもない商品だったのに、宣伝され続けたり「今ならお得!」とか言われたりすると欲しくなってしまうことがある。選択肢を奪われているという現実に気づかずに、手に入れられるもの、与えられるものを見て、それこそ最初から自分が欲しがっていたものだと思い込んでしまう。

  • 本来は欲求が先立ち、描いた理想は手に入らない可能性も高く、不幸を味わうこともある
  • 与えられるものを「欲しかったもの」だと思い込めば、常に理想が手に入り幸福であり続けられる

君は今、後者の心地よさに病みつきになってしまった。もう自分固有の欲求は生まれず、理想に人生を賭けて挑むことも不可能になった。こうなることはわかっていたはずなのに、どうして手遅れになる前にもっとよく考えなかったんだい?

不幸に連れ戻してあげるから覚悟して:Chorus & Bridge

“drink the Kool-Aid” という表現があるように、人間は社会や集団の圧力を受けると同調してしまいがちで、深く考えずに誤った選択をしてしまう。たとえそれが、毒を飲むほど害のある行為であったとしても。だが、その圧力をかけてくる連中の中に、君のことを愛している人間なんていない。

僕は君を愛しているからこそ、その目を覚まさせたい。君がいかに酸素を奪われ、毒を盛られて、判断力を失っているのか、はっきりと自覚させたい。ぬるい幸福感に浸され続けていた君にとっては信じ難いほどの苦痛だろうけど、生きるとは(そして死ぬとは)こういうことだよ。僕が愛しているのはこの意味で生きている君だから、この両手は離さない。


ちょっと感想

この歌詞の解釈で一番悩んだのが、君に “Kool-Aid” を飲ませたのが “They” なのか “I” なのかということだった。最終的にこれは “They” だと判断して訳したけれど、解釈を始めた当初は“I” が飲ませたと考えていた。それぞれの理由を書いておきます。端的にはタイトルの “Kool-Aid” のどの側面を重視するかによって変わって、

  • 「同調圧力」の性質を重視するなら、社会である “They” が飲ませているとするのが妥当
  • 「ジョーンズタウン事件」のモチーフを重視するなら、“I”(教祖風に振る舞っているボーカル Oli)の指示でファンが毒杯を仰いでいるというシチュエーションが妥当

歌詞のメッセージとしては前者をひそませつつ、楽曲の世界観・雰囲気作り的には後者を打ち出して、どっちとも取れるよう巧みにブレンドしてるんじゃないかなと思っています。

あと興味深かったのが Asphyxiating Choke の使い分け。
口を開けて(“They” に歯を抜かれながら)笑いながら、酸素が足りないから緩やかに窒息していく Asphixiating。“I” に物理的に首を締められて、もがき苦しんでも手を離してもらえずに急速に窒息する Choke。窒息を意味する英単語はメタルコア系の歌詞でよく見るけれど、一つの歌詞の中で忌むべき窒息と愛すべき窒息とが対置されているというパターンに気づいたのはこれが初めてでした。

以下自分用のメモ

  • テーマ:カルト、妄信、欲求、幸福感
  • アプローチ:教祖、信者、社会、個人
  • 拠点:酸欠、自覚、愛、覚悟
  • 口、牙、喉、窒息、ジュース

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