みんなに知って欲しい、誇らしい人
ヒーローには2種類ある。漫画や映画の世界の超人的ヒーローや、スポーツ選手やミュージシャンなどのスターはわかりやすく誰もが憧れるヒーローの1種である。もう1つは、身近なところにいる無名のヒーローだ。自分が無力なときに助けてくれた頼もしい人、損得勘定なしに躊躇いなく人助けができる人もまた、間違いなくヒーローである。あなたの身近にはどんなヒーローがいただろうか?父親、母親、兄姉、友人、先輩、あるいは名前も知らない人がヒーローとなることだってある。その活躍はテレビに映ったりはせず、自分以外誰も知り得ないかもしれない。しかし自分にとっては有名なヒーロー以上にヒーローなのだ。自分が救われた気持ち、感謝してもしきれない気持ち、その人を尊敬してやまない気持ちが溢れてこの曲は歌われる。
あなたこそが僕のヒーローだ あなたは特別なことをしたつもりはないのだろうれど まっすぐに人々を救い、僕を救ってくれた 僕はあなたの生きた証をみんなに知って欲しいんだ
ぜひ最後までお付き合い下さい。
アーティスト・曲紹介
Foo Fighters はアメリカ(シアトル)出身のロックバンドです。1994年から活動しており、2021年には「ロックの殿堂」入りを果たしています。フロントマンでギターボーカルのデイヴ・グロールは元Nirvana のドラマーです。カート・コバーンを失ってNirvana が解散した後、デイヴは独力で(すべてのパートを自分で演奏して)アルバムを作り上げ、並行してメンバーを集め、Foo Fighters を結成しました。
今回分析する『My Hero』は1997年にリリースされた彼らの2ndアルバム、「The Colour and the Shape」に収録されている曲です。
歌詞の対訳
Verse 1
Too alarmin’ now to talk about
0:34~0:59
Take your pictures down and shake it out
Truth or consequence, say it aloud
Use that evidence, race it around
急な知らせに驚いて、今は言葉が出ないよ
飾っていた写真を下ろし、額縁から出してくれ
真実を言ってくれ、大きな声で
その証拠を使って、広めてくれ
Chorus 1
There goes my hero
1:00~1:20
Watch him as he goes
There goes my hero
He’s ordinary
ほら、僕のヒーローだ
彼を見届けてくれ
ほら、僕のヒーローだ
彼は普通の人なんだ
Verse 2
Don’t the best of them bleed it out
1:30~1:55
While the rest of them peter out?
Truth or consequence, say it aloud
Use that evidence, race it around
最善の人は、血を流さないのかい?
残りの人が皆、ボロボロだってのに
真実を言ってくれ、大きな声で
その証拠を使って、広めてくれ
Chorus 2
There goes my hero
1:56~2:16
Watch him as he goes
There goes my hero
He’s ordinary
僕のヒーローは行く
彼の生き様を見てくれ
僕のヒーローは行く
彼にとっては当然なんだ
Bridge
Kudos, my hero
2:48~3:00
Leavin’ all the mess
You know my hero
The one that’s on
栄誉ある僕のヒーローは
とっ散らかしながら
そうさ、僕のヒーローは
止まらない人なんだ
Chorus 3
There goes my hero
3:01~3:50
Watch him as he goes
There goes my hero
He’s ordinary
There goes my hero
Watch him as he goes
There goes my hero
He’s ordinary
僕のヒーローがゆく
彼の生き様を見てくれよ
僕のヒーローがゆく
それが彼の普通なんだ
僕のヒーローが行ってしまう
彼を見届けてくれよ
僕のヒーローが行ってしまう
彼は普通の人なんだ
歌詞分析
タイトル「Hero」について
ヒーロー、英雄。優れた力や知識や技術によって偉業を成し遂げ、人々に有益となる活躍をする人物を指す言葉だ。
この曲では「彼」が「僕」のヒーローである。だが、「彼は普通の人だ」と歌われている点がヒーローの定義とは一見矛盾する。「普通の人」であるヒーローとは、どのような存在だろうか?
それは身近なところにいる無名のヒーローだ。自分が無力なときに助けてくれた頼もしい人、損得勘定なしに躊躇いなく人助けができる人だ。
「彼」は超人的な力など持たない「普通の人」だが、人々を助け「僕」を救った紛れもないヒーローだった。
「Hero」たる所以
Verse2 に「彼」をヒーローたらしめている人間性が描かれている。立場の弱い人たちが苦しんでいる時、善人であると期待されていた人(立派な人物だと思われていた人)は保身に走ったのか、血を流さなかったようだ。対照的に内容を読み取れば、「彼」だけは血を流して皆を助けることをいとわなかった、ということだろう。それがさも当然のことであるかのように、「彼」は動いた。
後ろを振り返らないところもヒーローらしい性格だと感じる。Bridge では、あたりをとっ散らかしながら自分の正義を信じて前だけを見て進む様子が描かれる。この特徴はミュージック・ビデオでも表現されており、映像には終始頼もしい後ろ姿だけが映されており(一度も振り返らないので顔が正面から見えない)、前だけを見て突き進む様子がおそらく演出されている。
「Hero」との別れ
”There goes my hero” は複数の意味に取れる表現で、ヒーローが現れて目の前を通過するという意味と、ヒーローが立ち去っていなくなってしまうという意味に読める。Chorus2 は明らかに前者の意味で取るべきと思われる一方で、Chorus3 は後者の意味と捉えた。Bridge の ”leaving all the mess” などからヒーローが活躍を終えて去っていく状況がイメージされるからだ。
それを踏まえて Verse1 を解釈すると、主人公を驚かせているのはヒーローの突然の訃報だったのではないかと予測される。それを受けて、ヒーローの残した証を皆に知ってもらおうと動き出した(歌い出した)というストーリーに読める。時系列で言うとVerse2 は過去であり回想にあたるのだろう。
作詞プロセスの想像
世間にもてはやされているヒーローだけがすべてじゃない。
人々が映画のヒーローやアスリートやロックスターに憧れるのも当然のことだけれど、もっとずっと身近なところにいる、自分を直接的に助けてくれたヒーローにも目を向けて欲しい。身近なヒーローはある意味では普通の人で、日頃お世話になっている人の場合もあれば、それまで知り合いでもなかった思いがけない人の場合もある。彼らは自然体でヒーローだから、ポスターのように格好つけた姿を切り取るような真似をしなくても、ありのままで格好いい。
無名のヒーローを意識的にピックアップして、その存在を讃え、広めるような歌詞を作りたい。
「僕のヒーロー」の生きた証を一緒に見届けてほしい。
もう一つのテーマとして、「僕のヒーロー」との別れという個人的なエピソードを元に歌詞を作りたい。去っていく「僕のヒーロー」にきちんとお別れを言うため、感謝を伝えるため、別れを受け止めるため、そのための歌詞を書くことを考える。
ヒーローとの突然の別れに対して言葉が出せなくなっている現状があり、それを乗り越えるために第三者の協力を求める。現実を認めたくない気持ちと闘うため、第三者に真実をはっきり言うように要求する。
そうして「僕」は別れを受け止め、過去を振り返り、「彼」への莫大な感謝や尊敬の念を改めて抱く。その想いは一人で抱え留めおくべきものではないと感じ、皆と共有することを欲する。「彼」がいかに尊敬に値するヒーローであったか、そして「彼」がもういなくなってしまうという事実を。
名声なんか見向きもしないヒーローだったから、代わりに「僕」が「彼」を讃え、一人でも多くの人にその生きた証を知ってもらおうとする。「僕のヒーロー」の生き様を一緒に見届けて欲しい、と歌う。
ちょっと感想
2022年3月に Foo Fighters のドラマー、Taylor Hawkins が若くしてこの世を去ってしまった。彼の追悼ライブにて、彼の息子 Shane Hawkins が、Foo Fighters に混ざって亡き父親の代わりにドラムを演奏した場面があった。そこで演奏されたのがこの曲『My Hero』であった。非常にパワフルなパフォーマンスで、父親のところまでその音を届けようとしているようだった。
この映像から受けた感動も大いに曲の解釈に影響している。みんなにも是非聴いて欲しいし、広めて欲しい。
以下自分用のメモ
- テーマ:ヒーロー、生き様、別れ
- アプローチ:普通、特別、来る、去る
- 拠点:止まらない、自然体、正義
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