言語の壁を超え、音に乗って届く感動。
なんかよくわからないけどすごい!という感覚は尊いと思う。読めない文字でも、聞き取れない言葉でも、知らないジャンルの音楽でも、絵画でも、こちらに背景知識がないのに心を揺さぶられる作品と出会えると、忘れられない経験になる。そのとき感動は、僕ら自身が頭や心の中で生成すものではなく、作品から僕らの魂へとエネルギーが与えられるような現象だと感じる。
言語による隔たりや、常識・文化との隔たり(アイデアの斬新さ)、時間的隔たり(作品が創作され始めた時〜鑑賞されるまで)など、距離が遠ざかっているほどに、そこを飛び越えてくる感動という現象が神秘的なものとなる。この曲は「君もそうやって人を感動させる作品を生み出せる」と背中を押してくれる。世界中あらゆる言語・文化の人々に広く愛されているColdplayだからこそ、その言葉の説得力や安心感が莫大である。とにかく動き出そう、途方もない山を登ろうとする熱量は、いつか作品を通して人に届き感動させる。
大きな目的に向けて歩みを始めよう その熱量はいつか人を感動させる その時が訪れるまでわからないと思うけど 言語をも超えて人の心を揺さぶるんだ
ぜひ最後までお付き合い下さい。
アーティスト・曲紹介
Coldplay はイギリス(ロンドン)出身のロックバンドです。1997年から活動しており、2000年リリースの1st アルバム「Parachutes」から最新の9thアルバム「Music of the Spheres」までの9枚全てが全英アルバムチャートで1位を獲得している(歴史上初)という、異次元の成功を収めているバンドです。アルバムの総売り上げ枚数は1億枚超えだそうです。音楽性はオルタナティブ・ロック(初期は特に U2 や Radiohead の影響が大きい)を土台にしつつ、エレクトロニカやクラシックなど多彩なジャンルを融合させており、アルバム毎に全く違ったサウンドを切り開いてきました。
今回分析する『Speed of Sound』は2005年にリリースされた彼らの3rdアルバム、「X&Y」に収録されている曲です。
歌詞の対訳
Verse 1
How long before I get in?
0:17~0:32
Before it starts, before I begin?
How long before you decide?
Before I know what it feels like?
僕が乗るまであとどれくらい? 始まるまで、僕が始めるまでどれくらいかかるかな 君の決断まであとどれくらい? 僕が手応えを知るまでどれくらいかかるかな
Where to, where do I go?
0:33~0:48
If you never try, then you’ll never know
How long do I have to climb
Up on the side of this mountain of mine?
僕はどこへ行くべきか、どこへ向かっているのか? 君も挑戦してみなきゃ、わからないよ 僕はあとどれだけ登ればいいのか? 僕自身を突き詰めていく、この登山を
Verse 2
Look up, I look up at night
1:03~1:18
Planets are moving at the speed of light
Climb up, up in the trees
Every chance that you get
Is a chance you seize
見上げよう、夜空を見上げると
惑星たちが動いている、光となって届く
登ろう、木々の上に
君が手に入れるチャンスはどれも
君が掴み取るものだから
How long am I gonna stand
1:19~1:34
With my head stuck under the sand?
I’ll start before I can stop
Before I see things the right way up
あとどれだけ僕は耐えられるのだろう 砂に頭を埋もれた状態で 立ち止まれてしまう前に、動き出すよ まともな物の見方をしてしまう前に
Chorus 1
All that noise, and all that sound
1:36~2:06
All those places I got found (Got found)
And birds go flyin’ at the speed of sound
To show you how it all began
Birds came flyin’ from the underground
If you could see it, then you’d understand
全てのノイズ、全てのサウンド
僕が見つけてもらった、全ての居場所
鳥たちは飛んでゆく、音に乗って
全ての始まりを君に伝えるため
鳥たちは飛んできた、地下を通って
目の当たりにできたら、きっと君にもわかるよ
Verse 3
Ideas that you’ll never find
2:16~2:30
All the inventors could never design
The buildings that you put up
Japan and China all lit up
どこかに答えを探してもダメさ
誰も発明できなかったアイデアなんだ
君は高く積み上げてきたね
日本や中国に輝くビル群のようだ
The sign that I couldn’t read
2:31~2:47
Or a light that I couldn’t see
Some things you have to believe
But others are puzzles, puzzling me
僕には読めなかったサイン
僕には見えなかった光
君にとって信じなきゃいけないこともあれば
難解なパズルもあって、僕を混乱させるよ
Chorus 2
All that noise, and all that sound
2:48~3:24
All those places I got found
And birds go flyin’ at the speed of sound
To show you how it all began
Birds came flyin’ from the underground
If you could see it, then you’d understand
Oh, when you see it
Then you’ll understand
全てのノイズ、全てのサウンド
僕が見つけてもらった、全ての居場所
鳥たちは飛んでゆく、音に乗って
全ての始まりを君に伝えるため
鳥たちは飛んできた、地下を通って
目の当たりにできたら、きっと君にもわかるよ
あぁ、目にしたら、君は理解するよ
Bridge
All those signs, I knew what they meant
3:33~3:47
Some things you can invent
Some get made, and some get sent(Ooh)
全てのサイン、僕はその意味を知った
君が発明できるものがある
生み出されるものも、贈られるものもあるよ
Chorus 3
Birds go flyin’ at the speed of sound
3:48~4:14
To show you how it all began
Birds came flyin’ from the underground
If you could see it, then you’d understand
Oh, when you see it
Then you’ll understand
鳥たちは飛んでゆく、音に乗って
全ての始まり方を君に伝えるため
鳥たちは飛んできた、地下を通って
目の当たりにできたら、きっと君にもわかるよ
あぁ、目にしたら、君は理解するよ
歌詞分析
タイトル「Speed of Sound」について
タイトル「Speed of Sound」は直訳すると音の速さ、音速を意味する。大気中の音速は約340.5m/s(温度により変動する)、時速換算だと約1225km/hで、マッハ1の基準でもある。液体や個体を伝わる時はさらに早く、地殻中の音速は約5000~7000m/sで、地震における初期微動が伝わる速度はこれである。
Verse 2 には「Speed of Light」(=光速)が出てくるので、これとの対比を解釈の手がかりにする。Verse 2 は、実際の物理現象としては惑星は光速(=秒速約30万km)で動いているわけではないので、惑星の存在や動きや瞬きが光の情報として僕らに知覚される、という意味だと考えられる。
Chorus の「Speed of Sound」についても同様の解釈を試みると、鳥が飛んでいったり飛んで来たりする様子が音として知覚されるという意味になるが、羽ばたきが聴こえるということだろうか?これだけではいまひとつピンとこない。
この曲の Chorus において「鳥」は、物語の始まり方を告げてくれる存在であり、地下を伝わってくるうな、音として知覚可能な現象のようだが、その正体はなんなのかを考察する。
鳥(の羽ばたき)=作品に宿る熱量(が生む振動)
ライブを生で観ていて、ドラムやベースの重低音が空気や地面を伝わって、身体を揺さぶられる経験を思い浮かべてほしい。身体全体、そして心臓を揺さぶられるこの物理的な感覚は、感動している状態の心理的な感覚とよく似ており、同時に味わうと両者は区別できないほどシンクロしていると思う。
音波が空間を伝わってきている最中はなにも認識できないが、自分の鼓膜や全身に音波が到達して響いた瞬間に、音楽と感動が受け取られる。音波という振動の「始まり」は、ボーカルの声帯やドラムの打面やギター・ベースの弦やスピーカーの膜の振動などであり、これらの振動が空気や地面の振動として伝わってくる。よってこれらの振動を「鳥の羽ばたき」として表現していると考えた(鳥の羽ばたき=振動)。
では「鳥」自体は何を意味するか?振動に「始まり」を与えたものは何かと考えると、ボーカルの横隔膜、ドラマーの手足、ギタリスト・ベーシスト指などの筋肉の収縮などが直接的な原因として思い浮かぶ。そしてそのように筋肉を動かそうとする意識、良い演奏をしようという意気込みや、良い曲を生み出そうとした努力や、音楽を突き詰めて生きようと決意したことにまでもさかのぼれると思う。音楽のライブを想定して考察してきたが、より芸術一般に適応できるはずで、「鳥」は作品に宿っている熱量、作者のこれまでの決意や努力などエネルギーの結晶のようなものだと思う。
「君」の創作について
Verse 3 以降の歌詞は “you” の創作を “I” が受け取ろうとする内容として読める。「Japan and China」、「The sign that I couldn’t read」などから抱くイメージとして、”you” と “I” との間にはアジア人と欧米人での文字や文化の違いなど、ある程度の隔たりを想像させられる。”you” が信念をもってなにか真新しいものを生み出そうとしているようだ。”I” はそれがなんなのか、文字などがわからないなりに助言をしている。言葉の壁を意識させられる Verse となっている。だが Chorus では鳥が飛んでくれることで、壁を超えて作品に込められた情熱を理解する。続くBridge では、”I” は読めなかった文字の意味がわかっているのである。感動がパズルを解いたとも言える。
作詞プロセスの想像
なぜ作品が人を感動させるのか
音楽を始めとする、あらゆる創作物がもたらしてくれる「感動」についてを歌詞にしたい。作品が人を感動させるエネルギーは、どこから生まれているのか?きっとそれは「物語の始まり」に由来するのではないか。作者が創作という終わりの見えない山岳を登り始めていたとき、作者がチャンスをその手に掴むために必死に手を伸ばし始めたとき、作者が世間からみたらまともじゃないような自分の価値観を信じて動き出したときに発生したエネルギーが、時や空間や言語の壁を超えて受け手に届いたときに解放され、感動させるのだろう。Verse 1,2 ではこれらのエネルギーの原点を描写しよう。
感動という現象をどう描くか
人を感動させるエネルギーは、いかにして作品から人の心へと伝達されるのだろうか。音楽で感動する場合、演者(あるいは音源)の発する音波が空気を振動させ、観客の耳に到達し鼓膜を振動させ、電気信号となり脳に届き興奮をもたらすわけだが、もっと直感的に、演者から観客の心へとダイレクトに飛んでくる「感動」そのものの軌道を表現できないだろうか。空間を飛び地下を伝わる「感動」のエネルギーの塊のようなものとして、音に重なるように飛ぶ「鳥」に象徴させ、Chorus としよう。
感動はどんな障壁を越えられるか
言葉や文字のわからない異国の楽曲であっても、感動しその作品の意味を感じ取れた経験がある。文化が違うと相手の作品のサインを読み取るのは難しく、そもそもサイン自体に気づくのも困難になる。しかし、作品に感動し、作者の創作の原点を伺い知ることができれば、サインの意味は自ずと感じ取ることができるし、その作者がこれからも思いもよらぬ創造をしてくれそうだとわかり期待が膨らむ。
Verse 3 ではあえて主人公との間に隔たりのある存在として相手を登場させることで、続く Chorus で感動がそれを超越する様を描けるようにする。
ちょっと感想
僕がどの曲を分析対象に選んでいるかは、今のところほぼ直感で決めている。まず曲のサウンドやボーカルの声色から歌詞の持っている雰囲気やメッセージの方向性を予測して、次に歌詞を通して読んでみている。僕はリスニング力に乏しいので、歌詞はよく聴き取れていないから、歌詞カードをみて予測と実際との一致や乖離の一つ一つをとても楽しめる。自分がそうして特に楽しかった曲は、きっと誰かにとっても楽しめると信じて、記事にすることにした。この曲『Speed of Sound』から感じた爽快なエネルギーも同様に、歌詞が解るより前に伝わっていた。まさに、言語の壁を超えて「Birds」が飛んできていたのだと、理解した。「Oh, when you see it, Then you’ll understand」と言われた通りに。
以下自分用のメモ
- テーマ:感動、作品
- アプローチ:振動、隔たり、標高
- 拠点:決意、創造性
- 音波、鳥、文字、木、建物
コメント